過言に苛まれながら

岩下 啓亮
Feb 13, 2021

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①若い頃、雑誌の編集者に諭されたことがある。「あなたさ、実存って書いた箇所、違う言葉を探しなさいよ」と。「どうしてですか」と私が問うと彼は「だって実存の意味がわかってないくせに使ってるのが丸わかりだもん」と答えた。私が気分や雰囲気で実存の二文字を当てはめたと、見透かされていたのである。

②かかりつけの小児科クリニックの診察室には、子どもから贈られたたくさんの絵が貼ってあった。私がお世辞のつもりで「みんな絵が上手ですねー」と口にすると、医者は真顔で「お父さん、子どもの描いた絵はね、上手い下手ではないんだよ」とたしなめた。二十年ほど前のことだけど、今でもたまに思いだす。

そういった、うかつな過去の記憶が夜半に私を苦しめる。自業自得ではあるけれど当時に戻るわけにはいかない。せめてこれ以上、くだらない・莫迦げた発言や意見表明をしないよう、肝に銘ずるしかない。

今でも「あ、今のは言い過ぎたかな」と感じることがある。相手の戸惑いかたで察せられるのだ。そういう時は速やかに引きさがることにしよう。失言を言葉で取り繕おうとすれば、ますますワヤになる。

あるいは、言わずにはおれないからと忠告めいたことも。例えば、低い評価を下された子について、「や、でもあの子にも、ああ見えてなかなか長所があるんだよ」と既に定まった見解をくつがえすような差し出がましい意見も、控えたほうがいいのかもしれない。

世間話を問いかけて疎ましがられるようなら黙ったほうがいいかもね。それって、無益なお喋りはしないで、のサインだから。

私が昨夜うっかり投稿したのは、そういう理由だ。べつに「抗う声を控えよ」と牽制したわけではない。

ましてや、「女性蔑視発言の森喜朗をこれ以上責めるな」と逆張りしたいわけでもない。わきまえる必要なんか、どこにもない。ここで追及を緩めてはならない。

ただ、

私はきみに見くびられたくないんだ。嫌われたくないんだ。私はぶざまなさまをさらしたくないんだよ、きみだけには。

鰯 (Sardine) 2021/02/13

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Written by 岩下 啓亮

鰯です。熊本在住。イワシ(Sardine)とお呼びください。Mediumを日本語と英語の練習帖として活用しようと思う。Medium以外では、こちらを回遊しています。Twitter → @iwashi_dokuhaku はてなブログ『鰯の独白』→ kp4323w3255b5t267.hatenablog.com

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