パートナーが腕時計を買いたいというので街に出かけた。今かの女が使っている腕時計は亡き義母の形見だけれども、数十年前のものなので、さすがに不具合が頻繁になってきた。仕事中に、時間をす早く確認する必要があるらしい。腕時計を装着する習慣のない私には、どんなものが良いのか、とんと見当がつかぬ。しかし百貨店だったら「ちゃんとした」ものがあるだろうと、たいして調べもせずに時計売り場へ向かった。
甘かった。私たちからしてみれば、高級時計しか置いていなかった。仕事場で着けるには、あまりにもきらびやかであるように思えた。価格も、5万円以下のものは殆ど見当たらない。予算を3万円以下に設定していた夫婦は、すっかり気後し、すごすごと売り場から離れた。
デパートから出て、いくつか見て回った。ショッピングモールや老舗の時計店など。かいつまんで言うと、手ごろなものが見当たらなかった。ショーウィンドウに並べられている腕時計は、デパート同様、高級なものが殆どだし、かといって、雑貨屋の店先に並んでいるのは、あまりにもカジュアルすぎた。中高年というか老境にさしかかった夫婦にとっては、遊びがすぎるデザインといおうか、安っぽい感じが否めなかった。
もうちょっと、ふつうの、シンプルな腕時計がないものかなと思った。が、私(たち)の思う「ふつう」は、クラシックとかヴィンテージ風とか称すらしい。パートナーは、一目瞭然であるほうがいいから数字が1から12まで並んでいる文字盤がいいというのだが、そんな古風なデザインのレディース腕時計は、ないに等しかった。
どうやら街中に手ごろなものはなさそうだね、明日、郊外のショッピングモールに行って探してみようか、と言いながらも、もう一度デパートの別館にある、小さめのショップをのぞいてみた。
そこで、ようやくかの女のキャラクターに合う、すっきりしたデザインの腕時計にめぐりあった。ストラップは茶色のレザー、文字盤ではないが、パッとみて、これだと思った。価格は2万をやや切るくらい。安くはないが妥当なところだと思って、購入を決めた。
ダニエル・ウェリントンローズゴールドのレディース腕時計。2年間の保証付き。
たぶん、よく調べたら、これに似た国産のものもあるのだろうが、私たち夫婦は少しだけ変わっていて、衣服や装飾品など身にまとうものは出会いが大切で、できれば店頭で、これがいいなと決めたいのである。が、昨今それは、かなり難しくなってきている。あくまでも私的な感想に過ぎないのだけれども、中間的な(価格帯の)商品が激減している、と思う。
それは(層・意識・階級のいずれをつけてもいいが)「中流」が、本邦からなくなってしまったことと関係しているように思えてならないのだ。
今回、腕時計を探してみて、私の脳裏を過った言葉は「二極化」だった。
が、
自分(ら)の好みの商品が市場から少なくなった理由は、要するに、私たち世代が購買層として主流ではなくなってしまったからだろう。悲しいかな、それが現実である。鰯 (Sardine) 2021/04/18
追記:この投稿について、Twitterで「ドンキ行くと1,2万円クラス充実w」というリプライをちょうだいした。わが小市民意識を、完膚なきまでに粉砕してくれて、どうもありがとう。