正直なところ

岩下 啓亮
7 min readOct 3, 2020

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数時間前、Twitterにこんな投稿をした。

いきなり掲げると何のことか分からないだろうから(10/3付の)毎日新聞の社説も併せてリンクしてみよう。

日本学術会議の会員改選で、推薦された候補者105人のうち6人を、菅義偉首相が任命しなかった。1949年の会議創設以来、極めて異例の事態だ。6人はいずれも人文・社会科学の専門家だ。安全保障法制や「共謀罪」創設など、安倍晋三前政権の重要法案について批判的な意見を述べたという共通点がある。(以下略)

この暴挙を、私が信頼しているTwitterアカウントの @pristinanomine 氏は、

これは学者による学問的卓抜性評価に基づく自治を毀損する行為で、学者の自治が保障されないところに学問の自由は存在しない。

と指摘した。これを見て、迂闊な私もさすがに事の重大さに気づき、関連する他の意見をリツイートしつつ、自分も思うところをいくつか投稿したのだった。

雲の上の学者さんたちの問題だから私たち一般には関係ないわ、と考えたら大間違い。内閣総理大臣が任命の形で人事介入に踏みこんだことを前例として認めれば、それは行政全般に影響し、さらには社会全体が「上」に都合のわるい論や発言を排斥するようになるからね。 #日本学術会議への人事介入に抗議する

私は、今回の菅義偉の指示による任命介入に象徴される、体制批判を排除する強硬な姿勢が世間一般に波及することを何よりも怖れ、心配していた。ところが、SNS上の学者や識者たちの発言は、そのことに関して、むしろ冷淡な印象を受けた(あくまでも一部だと思うけども)。

それが一般に正しく理解されないディレンマから発生した感情だと想像しつつも、「みんながこんなに日本学術会議に興味を持っているとは思わなかったな」※とうそぶいてみたり、「安倍政権から一貫して悪事が着々と積み重ねられている事実を曖昧にしない語り方を堅持するのは大事だ」と(「これは絶対にあかんことや」という素直な感想の表明に)言わずもがなの連続性を説教して回ったりと、理解しがたい言動に奔る識者を幾人も見かけた。

前述の @pristinanomine さんも、<学者先生がたには世間への歩み寄り:問題を分かりやすく噛み砕く、なぜみんなの問題なのかを説明すること>をお願いしたいと述べていたが、私は、学者がひけらかす「教えてさしあげる」の態度に、

正直なところSNSにおける学者や左派知識人の無意識な思いあがりにはかなり辟易している。下手くそ、もっと上手く一般人を説諭してみろと感じる発言をいくつも見かけた。事態が事態なだけに誰とは名指ししないが、テメエらだけが社会正義を背負ってるわけじゃないんだぞと控えめに記しておきたい。

と投稿しようとして寸前で思いとどまったくらい、腹に据えかねた。誰がどんな発言しようと勝手だけども、それは「左傾学者が政治権力にパージされるのは小気味いい、もっとやれ菅総理」と嘲笑する単細胞なネトウヨとあまり大差ない鼻持ちならない態度に思えたのだ。そんなことでは、いずれこの問題は単なるインテリの苦悩に回収され、一過性の話題として忘却されてしまう、と危惧したのである。

だから、最初に引用した拙ツイートの、

正直なところ、<学者の自治による学問の自由>を十分に理解しているとは言いがたいのですが、それでも、政治権力による「知」の毀損を看過すわけにはいかないと思い、今回この呼びかけに賛同しました。

は、私からの精一杯の皮肉なのである。

が、それでも。

安倍内閣を継承した菅内閣の問題点、判断の誤りを認めず、決定を覆さない頑なさを指摘し、批判していくことは、やはり社会の公益につながることだと思うのです。

菅の威嚇と懐柔で、骨抜きにされたとみえる既存メディアだが、この件に限れば思った以上に骨のある姿勢をみせた。が、まだ足りない。やはり国会で事の経緯と判断の是非を問われるが筋だろう。野党支持者の中にも、またぞろ「批判のための批判か」とか「いつまで一つの問題に執着しているんだ」とか「そんなことより前向きな提案を」とか、たたかう前から退却を選び有権者の顔色ばかりをうかがう連中が現れるかもしれないが、野党が・国会の場で・首相に対し・人事介入の撤回を求めるのが最善の道だと、私は信じたい(国会の模様が正しく報じられるかどうかという懸念は、ひとまず措く)。

先の素朴な感想を述べた @itsgroovymasa さんに、

①<悪事が(安倍政権から)着々と積み重ねられているという事実>が前提なのは当然だとしても、それでもなお「こいつは捨て置けないぞ」と、あらためて・不特定多数に向けて・訴えかけることが大切だと思います。飽きやすく無関心な世間一般の耳目が集まるのは、似たような意見がさまざまな立場から同時多発に発信されたときだから。

②訴求力を考えたとき、「より多くの人に分かりやすく」を狙った言説よりも、個人の素直な感想のほうがいちばん遠くまで届くものだとぼくは思います。「問題の重要性を分かってないな」的な優越も「自説に拘泥する左派陣営の矮小化」みたいな挑発も、直感が選んだ言葉の射程距離に、とうてい及びません

と返信したのも、

③<例えば、中学校や高校で各クラスから選出されたクラス委員長を、校長が勝手にその一部の者を任命しないということがあるのだろうか(いや、ありはしない)。慣習(法)とも言うべき形式的な「任命」を無視する菅中学校ではありうるのか?>

という @kotobano2 氏の意見に、

④ぼくも昨夜そのたとえを使えないかと思案していました。ありとあらゆる「組織」に共通する例題として。それは学術会議を卑近な地平に落としめる作業ではなく、事の重大さ・危うさを一人でも多くに知らしめるため。

と返信したのも、

文春オンラインに掲載された山本一郎の噴飯もののコラムを紹介した @kuntakinya さんに、

⑤つまらない記事でした。読んで時間を損した気分です。やまもといちろう氏の茶化しや愚弄を面白がる層や、納得したがる向きもいるでしょうが、こんな誘導を蹴散らすくらいクソまじめに「菅義偉の介入は不当だ」と言うべきです。実際ぼくは自民を支持する方にはっきりと伝えました、「あれは相当まずいですよ」

と返信したのも。

これらはすべて、鰯という無学な一市民が、今回の官邸による任命介入を重大な問題だと捉えていることの表れなのである。

またもやTwitterに投稿できない、表明したくないホンネを、ここMediumに晒してしまった。Twitterに触れない読者の方々には申し訳なく思う。どうかお許しを。

鰯 (Sardine) 2020/10/03

追記:先日投稿したこの記事に「みんながこんなに日本学術会議に興味を持っているとは思わなかったな」※とうそぶく匿名アカウントの意見を引用したが、まさかリアルに<なんで、いま、みんな日本学術会議に関心を持っているの?>などと臆面もなく言い放つ新進気鋭の社会学者が現れるとは吃驚仰天した。

この東工大准教授からはメンションをもらったことがある。今年5月の「検察庁法改正案見送り」のときに。人の目や反応をとても気にする方だなと思った。↓

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Written by 岩下 啓亮

鰯です。熊本在住。イワシ(Sardine)とお呼びください。Mediumを日本語と英語の練習帖として活用しようと思う。Medium以外では、こちらを回遊しています。Twitter → @iwashi_dokuhaku はてなブログ『鰯の独白』→ kp4323w3255b5t267.hatenablog.com

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