もう何度めか、夢の中にきみが現れた。
夢の中のきみはわがままではなやかだ。
でも人懐っこさを装うところは一緒だ。
どの道わたしはきみに翻弄されている。
気がつけばいつのまにか花が咲いている。
梅をかわきりに、さまざまな色の花が。
周囲を見渡す余裕さえなくなっていた。
心も体もがちがちに凍らせていたから。
“模範的な正解が正しいとは限らない。”
“両親が立派すぎると子は窮屈になる。”
きみに伝えたい言葉を幾つか噛みしめて、
愚鈍なわたしは仏頂面で無関心を装う。
三十前のわたしなら煩悶していただろう。
還暦前のわたしだから自制していられる。
それでも狼狽える、春の兆のまぶしさに。
親切や思いやりを、好意だと錯覚して。
鰯 (Sardine) 2021/02/10