ウクライナにロシア軍が侵攻してはやくも3週間が過ぎた。
SNSにおいて、戦争についての意見を表明するのは慎重であるべきだと私は思う。その上で「戦争反対」と地道に訴える。
私は基本的に、強大な武力を投入し、軍事施設のみならず病院や学校などの民間施設をも攻撃し、一般市民を危険にさらすロシア軍の作戦を侵略だとみなしている。プーチン大統領の悪辣、専制支配や情報統制をゆるすことはできない。それは大前提で、言わずもがなのことだ。
ただし、戦争を始める“口実”を発明したもう一つの大国であるアメリカが、さも他人事のようにロシアを批難しているのをみると、「イラクの自由作戦」を思いだして、しらじらしい気持ちになることも言い添えておこう。
さて、Twitterのタイムラインをみていると良くない兆候を発見する。それは戦争の前には見られなかったものだ。
それは(気が進まないが)ウクライナ側にも問題があり、ネオナチの勃興と政権の人権侵害が常態化しており、背後に欧米の軍産複合体が暗躍している、という意見を展開する人が少なからずいることだ。
(関連記事)
私個人は、事実かどうかを確かめる術がないので、その意見にコメントはしない。Twitterでは「陰謀論」とみなす方が多勢を占めているが、それにも同調しない。
しかし最近、あいつも陰謀論者こいつも陰謀論者と、陰謀論者の摘発に血道をあげるアカウントが少なからずおり、それもまた極端かつ雑な分類でリストアップしているのをみると、これはたんに発信者の好き嫌いや政治的スタンスが反映しているのだなと思わざるを得ないのである。
私はこんなふうに注意を促した。
ちょっと待ってくれ。あんまり誰も彼もを「おかしな人リスト」に加えていると、そのうち誰もまわりにいなくなっちゃうぞ。陰謀論者認定ごっこは、ほどほどにしておけ。戦争は人の平衡感覚をくるわす。まともな人が、己がまともさを維持しようとして、極端だと認定された意見を排斥し始める。そのさまを見るのは正直つらい。
だって、ホントにトンデモな意見ばかりを発信している人と、慎重に戦争の起因を調べて「一概には言えない」とする人とを一緒くたにしているんだもの。雑だよ。
長年ツイッター界に棲息してきた鰯の経験則を申せば、これは選挙の前になると決まって起こる現象でもある。共闘できない他党を排斥するために、あるいは党内部の非主流派の力を削ぐために、「このヒトこんなこと言ってますぜ」と方々に触れまわるのだ。7月に参院選が行なわれるが、その前に煙たい陣営の評判を落とすことが「言いつけ」本来の目的、つまり党派性のなせるわざである。
私は、ウクライナ侵攻という機に乗じて、気に食わない論客や党派の印象を下げる作戦は“よくない”と思う。もちろん迂闊な発信をした者に批判はつきものだが、日ごろ冷静沈着だと思われる方々が「ふうんあの人も陰謀論者だったのね、近づかないでおこう」と態度を翻すのを見ると、かなりガッカリする。それ、味方を減らす分断ですよと忠告したくなる(しないけど。なぜなら、その見方を採用する理由は同感ですと認めているからだ。他人の好悪を直言して改めようったってムリな話だ)。
なぜ、陰謀論者のリストアップを「しない方がいい」と思うのか。それは個人的に苦い経験があるからだ。
私は2018年の胆振東部地震で「泊原発が稼働していたら全道のブラックアウトは防げた」論を展開していた5人をリストアップした。いわば「槍玉にあげた」のだ。
「泊が稼働していたら全道のブラックアウトは防げた」
発言者の共通項は「宇宙」。
①北大公共政策大学院。著書『宇宙開発と国際政治』
②北大学院。宇宙環境システム工学研究室、CAMUIロケット
③宇宙開発・科学関連ジャーナリスト
④『日の丸ロケット進化論』ライター
⑤実業家。宇宙企業“IST”代表
該当ツイートは1000件弱もリツイートされたので、本人たちの目にも触れたことだろう。しかし2年後、私は大いに後悔する。 ③の松浦晋也氏と④大貫剛氏では、新型コロナの政府対応をどう捉えるかが、明らかに違ったのだ。以後、私は松浦氏の発信に注目しているが、政策の誤りについて、じつに的を射た指摘をする方だと感心している。そして、あのとき一緒くたに「宇宙ロケット仲間=原発存置派」だとレッテル貼りしたことは、間違いだったと反省している。
それと同じようなことが、新型コロナの対応についてもあった。「検査スンナ派」のリストアップに、小野昌弘氏の名前をあげている者がいた。私は小野さんの発信には必ず目を通しているが、「むやみに検査するべきではない」的な意見を発したことは一度もない。断言する。これもたぶん印象によるものだ。あのリストは〈彼なら検査抑制派に違いない〉という先入観に基づいたものだったのである。
今回のウクライナ侵攻をめぐってのリストアップにも、同様の危険性がある。「氏は◯◯stateと再三述べている、だから陰謀論者だ」的な見方で、安易に斥けないほうがいい。嫌だいやだが高じての純化路線で、共闘の芽の膨みを何度摘んだら気がすむのか。もちろん好き嫌いは自由だ。私にも苦手な政治家や論者はいる。しかし一々あげ連ねたところでどうなる。人道を無視した暴論はともかく、疑義を呈する程度の意見を「ヤツもプーチン擁護だ」と指弾するのは本当によしたほうがいい。 鰯 (Sardine) 2022/03/21