クロノスタシス(英:Chronostasis)は、サッカードと呼ばれる速い眼球運動の直後に目にした最初の映像が、長く続いて見えるという錯覚である。(Wikipedia)
私がBUMP OF CHICKENの音楽を好きだという(書く)と、人は意外な顔をする。鰯さんの好きなジャンルだとは思わなかったという感じで。ま、SNSで邦ポップスの構造欠陥をたびたび質していた私だ、そのジャンルのど真ん中に位置するバンドを支持するのは日ごろの主張と辻褄合わないんじゃないのと感じるのだろうが。
でも好きなもんはしょうがないじゃん。
BUMP OF CHICKENを聞くたび、私は凄くあーいいなぁと、生まれ変われるもんなら藤原基央のような声になりたいなぁと思う。抗いがたい声質というのは確かにあるんだよ。
きっかけは『The Living Dead』というアルバムだった。それに入っている「Ever lasting lie」という長尺の曲にノックアウトされたのだ。そのスケールの大きさに。
そののち「天体観測」でブレイクして揺るぎない地位を確保する。そして約四半世紀の間、弛まず音楽性のスキルを向上させてきた。仲間どうしのバンドにありがちな定型に陥ることなく、例えばU2のように常に新味を加えてきた。その過程は省く。
その証明として、昨年4月に出たシングル「クロノスタシス」を聞いてもらいたい。アニメーション映画『名探偵コナン』の主題歌に使われたが、これほど手の込んだサウンドデザインを施したポップスは、世界中を見渡しても稀だと思う。
私は最初聞いたとき、拍子の頭が最後まで取れなかった。こんなことはパット・メセニー・グループの「ファースト・サークル」のイントロ以来だ。何度かくり返し聞いて、冒頭から続くシーケンスの組み立てを確かめてのち、ようやく拍の頭が冒頭から掴めるようになったが、まさに錯“聴”覚である。聞きながらずっと私は、指揮者よろしくタクトしながら拍子を確認していた。なんだか「プログレ」を夢中で聞いていた十代の頃に戻ったような気がした。
さらに藤原基央の歌う旋律の起伏にも驚いた。複雑なリズムの隙間を縫うようにしなやかに動きまわる。一部セオリー通りな節回しと感じないわけではないけれど、あまり気にならない。作為を感じない。
そう、これだけ作りこんでいるのに無理がない。きわめて自然体に聞こえる。それがいちばん不思議なところで、これは彼らの持ち味だと思う。米津玄師やKing Gnuといった複雑な構造の邦ポップスはたくさんあるけれど、BUMP OF CHICKENの衒いのなさは、他に類をみない。
つまり、聞いていて快いんだ。縁側で日向ぼっこしているときのような、丘の上でそよ風に吹かれているときのような開放感に満ちあふれていると感じるんだ、私は。
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というわけで、目下の最新シングルである「SOUVENIR」を。 快活な表題曲と雄大な「窓の中から」(先日NHKの『BUMP OF CHICKEN. 18祭(フェス)』で披露された)の間に「クロノスタシス」が挿入されている。この三曲を聞けば、現在の彼らが何処を目指しているかがよくわかると思う。鰯 (Sardine) 2023/04/11