ちゃんと説明しようよ(覚書)

岩下 啓亮
Oct 31, 2020

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鬼滅の刃のポスターをみていた坊やが吐き捨てるようにいった。

「ハン、何が『鬼滅の刃』だ。『ワンピース』のほうが、ずっといいよ」

「あら、坊やは『鬼滅』きらいなの?」

「嫌いというか、意味がわからないです」

「『ワンピース』のほうが好きなのね?」

「だって『ワンピース』のほうが、ずっと凄いですよ」

私は、そのやりとりの一部始終を聞いていないが、聞いていたら、口を挟んだかもしれない。以下は想像。

「『鬼滅の刃』のどこが嫌いか、説明してくれないか」

「へえ、鰯さんは『鬼滅』のほうが好きなんだ」

「そうは言っていない。ただね、坊やがそれほど言い張る理由が知りたいと思ってね。二つを比較するからには、何か理由があるんだろうな。

質問を変えてみよう。『ワンピース』のどこが、『鬼滅』より優れていると思っているのかな?」

「どこが、って、断然おもしろいから」

「うん、だから坊やは、『ワンピース』のおもしろさを説明すればいいんだよ。

どこがおもしろいの」

「鰯さんは、『ワンピース』が嫌いなんですね」

「違うよ。きみの意見がしりたいんだ」

「どこがおもしろいかって、……ぜんぶですよ」

「ぜんぶ? もうちょっと具体的に説明できないかな。ルフィと仲間たちの友情に結ばれた絆が、とか、ナミさんの肢体が魅力的だから、とか、いろいろあるだろう?」

「案外、詳しいじゃないですか」

「まぜっ返すなよ。あるいは、今でこそ『鬼滅の刃』がコミックス売り上げのトップだけど、それまで10年近くも『ワンピース』は一位を独走しており他の追随を許さなかった。だから、その業績に敬意を評すべき、だとか」

「あー、そうなんですか」

「きみが『ワンピース』が『鬼滅の刃』よりも優れていると思える理由を、他人にも分かるように説明できないと、『ワンピースのほうが凄いですよ』という感想に説得力がうまれない。たんなる“憎まれ口”にしか聞こえないからね」

「でも、だって……」

「思いつきを口にする前によく考えてごらん。相手が納得するような説明が不足しているから、坊やの意見はいつも軽んじられるのさ。ここだけは譲れない、という一点があるのなら、その根拠を示すことだ。自分の領域をまもる、その熱意もみえないから、誰もまともに取りあわないんだよ」

……と、

ここまで書いて、徒労を覚えた。マンガの優劣とは違う、もっと大事な局面で、私は幾度も坊やに伝えた。

  • もう少し考えようよ。
  • 考えをまとめてみようよ。
  • 自分の意見を説明してみてよ。
  • 自分から提案したっていいんだよ。

と。

私たちは辛抱強く待っている。坊やが自分の意思で動きはじめることを。だけど彼は、毎度どこ吹く風だ。自分の行動に責任を持たないまま、ただ傍観している。

人から指図されるのを厭がるくせに、人から指図されないと動こうとしない。嫌々な態度でするやっつけ仕事に、彼なりの努力や創意工夫は皆無。だから人は次第に期待しなくなる。頼んでも無駄だと。

身の回りで起こっていることを、たとえ話にしてみたが、これ、今の日本列島に蔓延している、病理そのものではないか。

ときの首相はうそぶく、「説明できることとできないことがある」と。

これが通用する世の中だから、誰もまじめに説明しなくなる。なんだ説明しなくてもいいじゃん、と開き直りが横行するようになる。トップの姿勢は市井の意識に反映するのだよ、残念なことだけど。

鰯 (Sardine) 2020/11/01

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Written by 岩下 啓亮

鰯です。熊本在住。イワシ(Sardine)とお呼びください。Mediumを日本語と英語の練習帖として活用しようと思う。Medium以外では、こちらを回遊しています。Twitter → @iwashi_dokuhaku はてなブログ『鰯の独白』→ kp4323w3255b5t267.hatenablog.com

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