あちこちにガタがきている

岩下 啓亮
Jan 11, 2021

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先週末は気温が零下まで低くなり、熊本にも珍しく雪が舞った。わが家の前から県道にいたる坂道は路面凍結を免れた。寝る前に水をちょろちょろ流していたので朝ぶじに水道も使えた。

ところが翌日、油断して水道を流し忘れた。案の定、朝方蛇口をひねっても、水は出てこなかった。さいわいトイレの水は使えたが、しばらく経っても台所はだめだった。屋外の水道管を確かめにいった。破裂こそしていないようだが、配管の一部がむき出しだ。おそらく管の内側は凍っているのだろう。

隣町のホームセンターに、凍結防止の保温材を買いに行った。朝からすごい売れ行きだったそうで、4本しか残っていない。2本を買って帰り、雪の舞うなか裸の水道管にそれを巻きつけた。これで効果があるかどうかは分からないが、しないよりかはましだろう。もともとシールドされていた管も、あちこちが剥がれていたので、ビニールテープで補強した(ちなみに、こうした作業は私より妻のほうが得意で、几帳面にテープを巻きつける彼女の横で私は役立たずに眺めているだけだったことを白状しておこう)。

午後になって水道は復旧し、お湯も出るようになった。一時的にせよ、水が止まる事態は、熊本地震の本震からの一週間以来である。当たり前のように水道を使えるのは、ありがたいことだとあらためて思った。

が、1966年だから今年で築55年のわが家、当然のことだか家屋のあちこちに相当ガタがきている。一昨年も屋根の雨漏りが甚だしかったので、業者を呼んで瓦をふきかえたりトタンに開いた穴をコーキングしたりしてもらった。玄関の壁は地震が原因で亀裂が走っているし、トイレや洗面所の白いタイルは何枚も剥げ落ちているが、そのままだ。亡父は生前に「はたしてお前はこの家を維持しきるかな(できるかな)?」と私に再三言っていたけど、正直なところあまり自信がない。今後ますますこの家はおんぼろになるだろう。

情けないことだが、リフォームするほどの資金が私にはない。シロアリの駆除や汚水槽の洗浄なども、然るべき業者に依頼しなければならないのだろうが、手つかずのままだ。ともかく、自分たちのできる範囲だけでも、わが手で修繕するしかない。

内田樹氏は先日、<日本にはいま100万人の「引きこもり」がいるそうです。その人たちに過疎の里山に来てもらって、そこの無住の家に「引きこもって」もらう。里山だと「そこにいるだけで」、里山を自然の繁殖力に呑み込まれることから守ることができる。>と提言していた。↓

一理ある考え方かもしれないが、私は、そりゃ先生ちと見積もり甘かないですかと言いたくなった。家は、何も手を施さなければ、人が住んでいても廃れるものだ。

そういうことに自覚的なのは、私よりも妻である。はっきりいって大工仕事ははるかに手際がよい。勘所を心得ている。実際、草ぼうぼうで荒れ放題だった庭は今やきれいに掃き清められ、庭木の枝は刈りそろえられた。もちろん週末には私も庭師の真似事をするけれども、作業のプランを立てるのは彼女である。頼もしいパートナーだ。

だから先日こんなもの↓も購入した。

こんなふうに私の休日はもっぱら家作業と買い出しで過ぎていく。知人と会ったり、近場へ行楽に行くこともない。国から自粛を要請されるまでもなく、在宅で大人しくしている。このまま、壊れかけた家に住まい、音楽を聴いたり本を読んだりインターネットに雑文を投稿したりしながら、あちこちにガタがきた身体をいたわりつつ、少しずつ老いていくのだろう。

いつか足腰が弱って、脚立に登るような庭仕事ができなくなる日もくるだろう。視力が衰えて反応が鈍くなったら運転免許証を返上しなければいけないが、どうやって買いものに出かけたらいいだろう。将来を漠然と想像するだに空恐ろしくなる。

あゝこれが「老後の不安」ってやつか!

妻とともに生を静かに見つめる侘び暮らし。職場以外で人と会い、語らう機会が徐々に減っていく。それが晩年というもの。分かってる。あまり深刻に考えすぎないようにはしてる。けど、少し寂しすぎる。

ホームセンターの駐車場は満杯で、客の大半は中高年だった。水道管が破裂しないよう保温材を買いに来た私たちも、彼らと似たようななりをしていた。日本全体もあちこちにガタがきているが、酷薄非情な首相から言われるまでもなく、国民はみな非常事態に備え、自助しておるのだぞ。 鰯 (Sardine) 2021/01/11

追記:もう一つ懸念材料がある。それは私たち夫婦が亡くなったらこの家をどうするかという問題だ。遠くに住む子どもに譲ってもいいのだが、こんなセコハン家屋、負の遺産になるだけだからなあ。

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Written by 岩下 啓亮

鰯です。熊本在住。イワシ(Sardine)とお呼びください。Mediumを日本語と英語の練習帖として活用しようと思う。Medium以外では、こちらを回遊しています。Twitter → @iwashi_dokuhaku はてなブログ『鰯の独白』→ kp4323w3255b5t267.hatenablog.com

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