walnutさんによる『鰯の告白 Anthology II』聞き始め。

岩下 啓亮
Mar 31, 2024

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いきなりだけどこの“告白”は言わずにいたことや信仰、罪などを吐露する本来の意味で使われていると思う。最近は秘めていた好意を伝える意味だけに使う人がいて、それを見るたび引っかかっていた。

さて、イワシさんは何を告白するんだろう。

1.「放蕩息子の生還」では、故郷から離れて行方知れずになっていた男が帰ってくるが、危険な異端者として捉えられている様子が描かれる。一体何があっていま再び故郷の何を欲するのかという謎、そして何かが始まるという期待、平穏が乱されそうな気配をアコギの激しいストローグが盛り上げる。

2. 「藍を染め上げ」は二人が始めは戸惑いながら接近し、情熱的に燃え上がる様子がメタファーを多用して描かれる。撃ち放った矢に自らを託したのかな。かの“砂の城“を思わせるような一曲。

3. 「遠い渚」。恋愛経験の乏しい僕は考え込む。渚が遠い?…いま何処にいるのだろう?渚とは終わりつつある恋の相手とかつて共有していたはずのキラキラした美しい記憶や経験で、遠ざかるのを感じながらひとり熱にうなされているということかな。ホレス・シルバー風のベースラインに浸りながら味わう。

4. 「かりん」はきれいな曲。特に中盤からのコーラスが本当に美しい。つど誰かと比べる必要はないのだけど、もしこれがCSNならこの曲はNかな、いやCもきれいな曲を書くぞ。極めて個人的な心のうちを“かりん、かりん、かりん”という響きにのせているのもいい。やっぱりNかな。としつこく考える。笑

5.「Baby it’s so hard. but I don’t mind」では愛する人の気持ちが移ろいゆくのに苦しみながら、それを見送る選択をする。後半ピアノの伴奏が低くなり、思いの強さが表れている。

6. 別れの曲が続く。「三月の雨」は惜しむのをやめたい心理が表れた曲だ。激しく降る春の雨に、愛した人への思いを洗い流してもらいたい、と。冬が明け、暖かくなって花が咲いたりする春だからこそ、偶然降った激しい雨にも尚更そんなふうに思うかもしれない。楽器だけでなく歌詞の音にも拘りを感じる。

7. みなNHKの『みんなのうた』で出会った曲が一つや二つあると思う。アニメが流れ、視覚的にも印象に残る。もし「はじめまして」が放送されたら、きっと少年から大人まで、様々な出会いと広がる人の輪の元気な映像になるだろうな、と想像しながらリトル・リチャードみたいにハジケている曲を聴きました。

8. 「えくぼ」。事更に引き合いに出すことはないのだけど今度こそCSNで言えばC。パートナーのチャームポイントという小さな幸せ讃歌かなと思って聴いていたらメロディも歌詞も分かりやすい展開をみせず繰り返され、「いい女」という言葉が出てきてオヤと思ううちにミステリアスに終わる。アコギの音最高。

9. 「午前3時」もうこれ以上は昨日を延長できないお別れの時間。とはいえ新しい日を迎えるにはまだ少し余裕がある。昨日と今日の間の時間。北の空を向いて西に手を振り東に微笑むような。

この曲、アルバムA面の最後とB面の始まりだったら、どちらに収められるだろう。

10. 「新世紀行進曲」は21世紀を担う決意と連帯の呼びかけ。同じ夢を追いかけることを望んでいるので、世代全般だけでなく個人に向けられているのかもしれない。当時の小泉人気、中国の急激な成長の始まり、拉致被害者の帰国といった記憶が蘇る。20代終盤、「出し切る」どころか完全に傍観していたっけ。

11. 「スーパーマーケット」は言葉遊びを交え皮肉っぽい歌詞をのせたシンプルなロック。演奏も歌も奥田民生を彷彿。“あーきらめ“の“Ah”や“ご案内“の“ai”の音、“アウト”“素人“の韻や、“どうだい“の繰り返しが効いているし、変拍子、ハモりなど聞きどころが多くて楽しい。

12. 「鐘の音が聞こえる」は70年頃のニール・ヤングや90年頃のレニー・クラヴィッツを思い起こさせるヘビーなロック。僕には「カネの音」に聞こえるのだけどダブルミーニングはあるんだろうか。中盤からのハープの演奏が素晴らしく、思わず声を上げた。コレ、今の録音で聴いてみたい。

13. 「好きになってください」という曲のタイトルについて、「好きです」は言ったことがあっても、自分のことを好きになってほしいという願いを相手に伝えるのは、かなり正直で思い切った行動だ。言われた相手はキョトンとするかもしれない。曲調もタイトルと同じくらい素直で、なんだかほっとする。

14. 僕は作曲をしたことがないけど、シンプルなロックなら決まったコード進行を拝借することで何とか作れる気がする。一方で「シンパシー」のような曲は逆立ちしても作れまい。いわゆるニューミュージックなのだけど、再ブームのシティ・ポップの感覚もある。大人の音楽だ。

15. 「裸足で踊って」はEngland Dan & John Ford ColeyとかStephen Bishopが好きな人なら必ず気にいるだろう。つまづいたとき、もう一度つま先の感覚を取り戻して立ち上がる。そのきっかけとして、素足で踊る、という発想が美しいと思う。

16. 『鰯の告白』Spotifyでも歌詞が表示され始めました。さて「マルガリータ」、誰かに心を奪われている時はその人のことが常に頭から離れない。でも実際は昨日と同じ生活の繰り返しで、これでは思いが叶うわけもなく、思い切った行動をふと考えてみたり。カルメン風の曲調で舞台っぽい趣もある。

17. 「街に響くは」あったなぁ、こういうこと。何処へ出かけても聞こえてくるのは恋の歌ばかり。自分にも恋人がいるのに、歌の恋に比べ味気ないのはきっと彼女が自分に物足りなさを感じているからじゃないか?だからって急に刺激的な男にはなれない。こっちは一緒にいるだけでいいからなあ、とか。

18. 「もっともっともっと」を聴く。どうしてこうも男は思い詰めると、別れを切り出して未練に苛まれるんだろう。イワシさんはファルセットと地声を自由に行ったり来たりしているけど…歌の主人公は…。

歌詞に秋葉原が出てくる。若い頃の僕は山手線の田端から品川の間を彷徨いてたからすれ違ってたかな。

19. 「好きなように」を聴いていて途中で、あれ、いつの間にか次の曲が始まっていた?と思った。どうしても出だしの部分で他の曲を思い出してしまっていたのだが、どんどんかけ離れていくのが面白い。「ヤングマン」っぽいところもあって1曲で3曲分くらい色々入っている感じがする。

20. 「ふわふわ」は名曲。運動場での友との出会い。「ダッシュ」「莫迦か」のやり取りがいい。ともに過ごした青春が終わり、別の道を歩んで二十数年の時点でのお互いへのエール。更に時が経ちこの曲も思い出に。立ち止まったり進んだり。この曲で放蕩息子の物語は閉じられ静寂が訪れる。暫し余韻に浸る。

さて、この連投の最初に書いたこと。数年間の生活の中でひとりの作者が書き、演奏し、唄った20の詩や物語に他人の僕が触れ、こうして好き勝手に感想を書かせてもらい楽しかったけど、リリースを機にさまざまな人に20の作品が初めて届いたりもするはずであり、これは確かに告白に違いないと思いました。

walnut @Sancho43783657 さんのツイート(X)よりコピー&ペーストしました。鰯

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Written by 岩下 啓亮

鰯です。熊本在住。イワシ(Sardine)とお呼びください。Mediumを日本語と英語の練習帖として活用しようと思う。Medium以外では、こちらを回遊しています。Twitter → @iwashi_dokuhaku はてなブログ『鰯の独白』→ kp4323w3255b5t267.hatenablog.com

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