岩下 啓亮
Sep 19, 2021

リュウジへ

9/17はリュウジの三回忌。

覚えているかな、これは約40年前に、お兄さんの商用車を借りて、鞍岳に行ったときの写真だよ(ハッチバックだ、カッコいいね)。

先日、きみン家の前を通ったときに、お兄さん夫婦や親戚が集まっていた。あゝ三回忌か、きみが亡くなってから、もう満二年が経過したんだな、としみじみ思った。

親父が亡くなったのも九月だったから、おれにとって九月はもの悲しく寂しい季節になった。そうそう、今年七月には母も亡くなったんだ。時節柄、満足な葬儀もしてあげられなんだ。申し訳ないような気持ちになった。

リュウジ、あれから日本の社会はめちゃくちゃだよ。

新型コロナウイルスが世界中で大流行し、人々は移動の規制を余儀なくされたが、政府はこれといった対策を講じず、成り行きに任せるがまま。安倍晋三は退いたが影響力を残しつつ、菅義偉が総理の座を引き継いだ。

生きていてもあまりいいことがないや。

これは昨年9/18のツイート。で、今年になっても事態は変わらない。東京五輪は一年延期ののち強行開催され、それに呼応したかのように、新型コロナウイルスの感染は昨年以上に猛威を振るい、緊急事態宣言が再び発出され、ここ熊本県でも「まん延防止等重点措置」が九月末まで続いている。昨日、宇城の道の駅に寄ってみたら入場制限で長蛇の列だった。みかんだけ買って帰るつもりだったが、その列を見て、かえって混雑しているじゃないかと思い、おれたち夫婦は諦めて帰った。

かように、事態は全く改善されていない。菅義偉は首相を退くが、コロナ禍の責任は追及されぬまま、与党は国会開催を拒み、今秋の衆院選を睨んだ自民党総裁選に血道をあげている。候補者は岸田高市河野野田ときた(最有力候補がワクチン配送で下手を打ったワクチン担当相だぜ?)マスメディアは何事もなかったかのように「このソーサイセン(まじめに漢字で記す気になれねえや、相殺戦か?)は事実上の次期首相選びだ」と熱心に報じている。コロナ感染による死者は増え続け、自粛により経済は落ちこむ一方だというのに、まったく末期的な状況だ。

社会がこんなふうになると、庶民であるおれたち夫婦も自助自衛に走らざるを得ない。貯えはいよいよなくなった。今の職場での定年は数年後だけど、いつまで働けるか予断を許さない。自分がいつまでも健康でいられるとは限らないし、これだけ経済が萎んでしまっては、仕事の先行きも明るくない。まるで読めない。何の保証もないんだからな。

だから生命保険を見直し、携帯電話等の料金を見直し、何事も節約を肝に命じ、健康のために間食をやめ、清涼飲料水を飲むのをやめ、質素な暮らしを心がけている。つまらないが、おれも来年は還暦だ。年相応の生き方が求められる(だが誰に? という疑問を抱きつつ)。

そんななか浮上した考えがクルマの買い替えだ。いま乗っている2002年製WILLサイファに、かなりガタがきている。10月末に車検を迎えるが、その前に、新車を購入した方が後々の経済には楽じゃないかと考えたんだ。ローンを組むのもこれから難しくなる年齢だし、まだ働けるうちに買ってしまおうと。

これ、短絡的かつ発作的な思いつきではなくて、おれにしては、熟慮の末の苦渋の選択だからね。

買うときは、きみの姪っ子の旦那さんのサカタさんが整備工を務めるところだと決めていた。ディーラーに赴き、ハイブリッドを試乗させてもらった。驚くほど静かだ。クルマはここまで進化していたのか。誰もそんなことを教えてはくれないんだ。こちらから教えを求めない限り。エコカー減税にしたって、詳しい内容は今回初めて知った(自動車を持たない層にとっては、なおさら他人事だろう※)。

いやリュウジ、きみは生前よく教えてくれた。クルマとは何か、運転するとは何かを。亡くなるちょっと前に、きみはプリウスに乗っていた。燃費が飛躍的に向上したことを、おれに詳しく説明してくれた。けど、乗るたびに、「でも、つまらないんだ。走らせる喜びは皆無だな」と必ずつけ加えていた。

リュウジ笑ってくれ。おれもつまらないクルマを選ぶよ。匿名性の高い、目立たない、老夫婦がよく乗っている、ありふれた車種に決めた。それで何か気持ちが変わるだろうか。何も変わらないと思う。

なあ聞いてくれ。今度のクルマには、なんとオーディオ機器が標準装備されていないんだぜ。スマフォを繋げられますよと営業マンから説明を受けた。となるとクルマの中でもSpotifyか。ついに、とうとうCDを車中で聞かなくなる日が来たんだ。これでまた減らした通信費がかさむかも……

……いや大丈夫さ。今だって車中でCDはかけない。ラジオばかり聞いているものね。昨日も、きみのお兄さんから形見分けでもらった(紙ジャケットの)スティーリー・ダンを順番に聞いていたけど、『うそつきケイティ』あたりで、ついに奥さん「飽きた」って音を上げたもんな。同乗者のことも慮らなけりゃ、これから先ままならないから、オーディオのオプションはつけなかったよ。

しかし、このことを書くのは、まだ早計かもしれない。納車できるのは早くて11月上旬になるそうだ。なんでも、ベトナムの部品工場が、コロナ感染拡大の影響で稼働してないから、納期が大幅に遅れます、とのことだよ。おい待ってくれ、すると車検日前に納車されないってことか? 代車を出しますとディーラーは言っているけど、新車を買うのって、そんなに待たされるものだったっけ? *追記

やっぱりおかしいよ今の日本は。世界もおかしいけど、とりわけおかしいと感じる。リュウジ、きみがいなくなってから、社会のおかしさはますます加速している。衰退する勢いが止まらない。どうなるのかな、これから。鰯 (Sardine) 2021/09/20

【追記】※だが(きみに言うまでもないことだけど)田舎にはクルマが必要不可欠だ。そう言えば、わが家から歩いて5分のH銀行T支店が、統廃合で閉店するんだ。この辺、ますます暮らしにくくなるね。

公共交通機関の少ない“地方”は、クルマがないと生きていけない。

【追記】*について。納車遅れの原因は、この件も関係しているかもしれない。

あの悲惨な池袋での事故の裁判もあって、トヨタは慎重になったのではないか、と想像してしまった。

ちなみに納車は10月中旬に無事決定した。

【参考記事】WILLサイファの前、親父のキャミに乗っていたころの話(2014年)。

岩下 啓亮

鰯です。熊本在住。イワシ(Sardine)とお呼びください。Mediumを日本語と英語の練習帖として活用しようと思う。Medium以外では、こちらを回遊しています。Twitter → @iwashi_dokuhaku はてなブログ『鰯の独白』→ kp4323w3255b5t267.hatenablog.com