ジル・ソビュールについて私が即席で知った二、三の事柄
戸嶋さんのキャット・エドモンスンについての記事を読んで、返信にジル・ソビュールの名前をあげた。
トッド・ラングレンがプロデュースした最初のアルバムが好きだったので、探したらYouTubeの公式チャンネルに載っていた。
ソフトでクールなウィスパーヴォイス、の認識で止まっていた私は、その後のジルの活動をほとんど知らなかった。
今回、彼女の順風満帆とは言えないキャリアを大急ぎでおさらいしてみた。いやぁ知ってよかった。こんな面白い音楽家は滅多にいない。
①女のこが女のこにキスする歌で、物議をかもす。
②モデルになろうとして拒食症に陥る、の歌もある。
この2つのヒットでアメリカ本国では名を知られるようになったようだが、1995年の名前を冠したポップなアルバムに、なんとゴリゴリのプロテストソングを同居させている。「レジスタンス・ソング」だよ。③
④続く『ハッピータウン』の冒頭曲。なんだか森山直太朗のさくらみたいなメロディだけど、「ビター」だけに甘さは微塵もない(註:ジルの方が5年前)。
⑤コロラド州ボルダーでの室内ライブ。冒頭でイエスの「ラウンドアバウト」を弾くお茶目なところも。
アルバムの中では2004年の『アンダードッグ・ヴィクトリアス』(“負け犬の勝利”と訳せるだろうか?)が聴きやすい。シカゴの有名曲をサンプリングした⑥や、
むちゃくちゃカッコいい(けどタイトルがヤヴぁい)ロカビリーナンバー⑦などヴァラエティにとんでいる。
ローラ・ニーロを2曲カヴァーしているしジュディ・シルをほうふつとさせる題名の曲(The Donor Song)などで、ジルの音楽的ルーツはうかがい知れるが、生前に交流があったというウォーレン・ジヴォンのカヴァーは、題材とあいまって今切実に響く。⑧
Don’t let us get sick
Don’t let us get old
Don’t let us get stupid, all right?
ジル・ソビュールは自分の立場をおおやけにする人だ。この「自由の女神」⑨や、
「民主社会主義者とは誰か」とか、政治的な立場を包み隠さない。⑩
ソビュールはセクシュアリティ、うつ病、戦争放棄、貪欲などのさまざまな問題について歌い、そのために風刺と個人的な経験の両方を使います。彼女のウェブサイトによれば、彼女の作品は「愛の発見・喪失・希望・収奪」という古典的な題材が多く、それらにユーモアを含ませ、詳細なキャラクタースケッチを施した女性の造形が特徴です(Wikipedia英語版より)
さらにバーニー・サンダース支持を明確にし、2016年にはキャンペーンソングとして「アメリカ・バック」を提供している。
これはもちろん、“強いアメリカを取り戻せ”というパトリオットのスローガンに公然と否を突きつけているのだ。ハフポストショーのスタジオライブも併せてどうぞ。
「アメリカ・バック」の痛快さは、たんにメッセージのみならず、さまざまな要素が複合的に絡みあう、音楽表現そのものの豊かさにある。ワルツ・アメリカの鍋のなかに、ごく自然に多様性が融合している。
できれば、ふたつ上の「アメリカ・バック(オフィシャル・ヴィデオ)」の方を、も一度、聴いてみてほしい。
この軽やかな音楽にめぐりあったことで、私は、もの憂い連休を何とか乗りきれるような気がした。同世代のアーティストであるジル・ソビュールに敬意を表したい。
鰯 (Sardine) 2020/05/02