そも、情報とは現実の切り取りではないのかな?

岩下 啓亮
9 min readFeb 11, 2020

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気になる記事を見かけた。

米ツイッターは4日、合成されていたり、意図的に操作されていたりする動画や写真などを含むツイートについて、「操作されたメディア」などと注意書き(ラベル)をつけると共に、公衆の安全を損なう可能性がある場合には削除する新たな施策を3月5日から世界で実施すると発表した。意図的に改変された偽(フェイク)動画などが増えるなかで、対策に乗り出す。/ネット上では昨年、米民主党の下院トップであるペロシ議長が話しているビデオの再生速度を意図的に遅くし、酔っ払っているようにみせる動画が数多くシェアされて問題になった。より高度な技術を使って動画を合成する「ディープフェイク」も増えている。/ツイッターが3月5日に全世界で導入するツイッター内の新規則では、こうした合成されたり、操作されたりしたコンテンツを含むツイートについて、「操作されたメディア」という注意書きをつける。さらに、そのツイートが個人やグループを身体的な危険にさらしたり、集団による暴力行為を引き起こしたりするおそれがある場合には、ツイート自体の削除も行う。/米国では今年11月の大統領選を控え、フェイク動画やフェイク写真の投稿が増えており、こうした動きは世界的な傾向でもある。ツイッターの新たな規則は、そうした問題に対処する姿勢を示したものだ。

この記事を読んで、とり急ぎ私はこのようなツイートを投稿した。

だが、慌てていたため、全世界的に実施するという箇所を見落としていた。このTwitter社の施策は例外なく実施される。

するとどうなるか。想像してみよう。

私は、ツイッターで頻繁に見かけるGIF(Graphics Interchange Format)のような、極端に圧縮された動画サンプルを好まない。ある意見を否定したり嘲笑したりする際、文章ではなくサムネイルを貼りつける使い方が、どうしても馴染めないのだ。自分とは関係なくても、からかわれているような気分になる(🤣🤣🤣←なども同じように感じるから自分では使わないようにしている)。

が、気に入らないからといって、取締れとは思わない。

それもまた(SNSという)文化の一形態であるならば、許容せざるを得ない。

Twitterは私企業のサービスであり、その決定には従うしかないという諦めからではない。むしろ逆で、今回の施策の決定はTwitterにとって、その(他のSNSとの)優位性を損なうとしか思えないのである。

140文字という限定されたフォーマットにユーザーが思い思いの感想を投稿する。文章は自然と圧縮されて余計な枝葉は削ぎ落とされる。

その発展過程において、画像や動画を貼りつけることも可能になったが、Twitterの情報の圧縮化に倣い、即時性に応じるべく、動画もまた要点だけを見せるように工夫された、言い換えればハイライトだけを切り貼りしたものが大半になった。

映画の一場面や音楽の盛り上がりなどが手際よく編集された投稿は(著作権の観点からみて問題あるにもかかわらず)人気が高い。Twitter社もこれを積極的に取り締まるつもりはないだろうし、表現の送り手側も、評判を得るための宣伝だと割りきる、意識の変容を余儀なくされたように見える。

問題は、政治だ。

Twitterが「操作したメディア」であるとラベリングすると決した背景には、記事が示すように、ずばり政治の介入がある。

トランプ政権が、政権に不都合な動画の拡散を食い止めるために、政治性の中立を建前としつつ、Twitter社に圧をかけたと見るのが妥当だろう。

これを受けたTwitter Japanが、すわ規制に乗り出すのは目に見えている。安倍首相の珍回答をダイジェストで紹介するような動画は「操作したメディア」であるとラベリングされる。安倍晋三は野党議員に追及される度々に「それはレッテル貼りだ」と反論するが、今後は、国会中継から発言だけを抽出して紹介した動画が「操作したメディア」だとレッテルを貼られるのだ。

何という倒錯した状況だろう?

これはTwitterがメディアであることを自己否定してみせたに等しい、愚かな措置である。“表現の自由”が損なわれるといった懸念はもちろんだが、“情報とは何か”という自問がなされていないようにも思える。

折しも、“Twitter政治”アカウントは、2月10日にこんなツイートを発信している。

続くスレッドでは、<日本青年会議所のメディアリテラシー確立委員会(@)がこれから毎週、リテラシーの理解やモラルを高めるのに役立つ情報をツイートしていきますので、皆さん是非フォロー&積極的に会話に参加してください>と記している。

この噴飯もののツイートを私は引用しつつ批判した。

いいかい? メディアリテラシーなるものは、自民党の集票団体にして不祥事を頻発させたモラルのカケラもない公益財団法人JC(日本青年会議所)なんぞに啓発されるもんじゃないんだ。/こんな提携を嬉々として拡散するTwitter政治アカウントの“政治”が奈辺にあるかは推して知るべし(リンク先↓記事を参照のこと)。

さて。

極論かもしれないが、情報とは現実の切りとりではないか、と私は考える。

現実の森羅万象を切りとり、加工し、分かりやすく、読みやすく提示したものが情報なのではないか。新聞記事が典型ではないか。国会での質疑応答の一部始終を文字起こししたところで、ほとんど誰も読むまい。何度も編集され、要約されたものを私たちは読んでいる。要約の仕方は即ちものの見方だ。どこを削りどこを残すかも各紙によって傾向が変わってくる。

私たちは同じものを見ていても、まったく別の像を認知しているかもしれないのだ。

これは毎日新聞の川田雅浩記者による、2/3衆院予算委における安倍晋三の◯◯な姿を捉えた秀逸な報道写真である(◯◯の中に適切な修辞を入れよ)。

この写真を添えた毎日新聞写真部のツイートに、このようなメンション(返信)があるのを見かけた。

まだ辻元議員の質問が続いている最中に時計を見ながら「終わった」と叫んだ。/テレビの国会中継が終わる時間になった、という意味と思われるが、その後は適当に時間を使えばいいということか。しかし国会中継は延長された。/これぐらいの解説付けないと伝わりませんよ。仕事して下さい。

確かに、キャプションなしでは、たんなる腕時計を眺める首相の写真にしか見えない。けれども、この写真が捉えた安倍の表情から、Twitterユーザーたちはさまざまな情報を読みとる。

数あるSNSの中でTwitterが今なお圧倒的な優位に立つ理由は、利用がきわめて簡便であるがゆえの、多種多様な意見が表出されているからである。

以下は、今日2020/02/11に投稿した連続ツイートをまとめたものである。いまいち反響がなかったし、上記と重複した部分もあるが、とりあえず現時点での中間報告として、ここMediumに掲載しておく。

①前リツイートで住友陽文氏(大阪府立大学教員)のいう<あらゆる情報は「切り取り」です>についてを、先日から考えている。ぼくも「情報は現実の切り取りである」と思う。新聞記事はダイジェストであり、テレビニュースはハイライトである。現実の事象を手際よく要約し、説明したものを私たちは「記事」と呼んでいる。

② いかに不偏不党を標榜しようとも基本的にNHKは時の政権に阿(おもね)る。その傾向は現政権下において露骨で、いかに安倍首相と閣僚を立派に見せるかに腐心している。批判的に見ればただちに見破れるような“作為”も、ニュースを現実の正しい要約だと信じる大多数の視聴者は、さも真実であるように認識してしまう。

③ もちろん毎日新聞デジタルが展開する<字数に制限のある紙面と違い・いくらでも長文が載せられるウェブで・ヒアリングを「そのまま」出>した「桜」の詳報も、記者がチョイスしたものを編集するプロセスを経ており、記事の長短にかかわらず現実の切り取りであることに違いはない。ただし、記事の内容や文脈から、私たちは「これは追及なのか追従なのか」を判断し、情報発信者である記者の「疑い」の意図を汲むことができる。

④ ぼくは、報道写真こそメディアの極北だと思う。狙いすまされたワンショットは、言葉よりも雄弁に真実を暴きだす効果がある。毎日新聞写真部が安倍の◯◯な(適当な2文字を入れよ)姿を捉えた秀逸な一枚に余計な解説は不要だとも思う。優れたキャプションを加えることも、ツイッターの醍醐味ではないか。

⑤ ツイッター運営が、政治権力に厄介な言説を封じこめる意図から表現の規制に乗りだすことは、ツイッターの価値を自ら毀損する行為に他ならない。140文字限定で表現するという基本フォームと同様に、ユーザーが任意に加工した画像や動画で現実を“カットアップ”することもまた、ツイッター最大の強みであるのに。

⑥情報は現実の切り取りであり、手際よく編集されたプロの報道も素人の感想を投稿したツイートも現実の一部分を切り取ったにすぎない。その点においては等価であると思う。分かりきったことを長々と記したが、発信者の投げかけた情報は受信者が真偽を判断するものだと私は考えている。 鰯 (Sardine) 2020/02/11

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Written by 岩下 啓亮

鰯です。熊本在住。イワシ(Sardine)とお呼びください。Mediumを日本語と英語の練習帖として活用しようと思う。Medium以外では、こちらを回遊しています。Twitter → @iwashi_dokuhaku はてなブログ『鰯の独白』→ kp4323w3255b5t267.hatenablog.com

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